ジャンボ

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ある日。

大曽根駅駅前のケーキ屋さんに、卵の殻に入ったプリンがあると云う。買いたい。週末に三姫、木乃香、紫帆と集まるのだが、手土産にはもってこいの可愛らしさ。
プリンは日持ちしないので、会の前日に訪ねることにした。

金曜日の昼下がり。店に着くや否や、入り口でネクタイが緩みジャケットを右手に抱える、ため息まじりのおじさんとすれ違った。その哀愁漂う後ろ姿と歩行者用信号機の点滅音は、人気プリンの売り切れを暗に告げていた。

とはいえ、入店した以上は何も買わずに出るのは気まずい。

こういう時の相場は決まっている。あたりを見渡し「No.1商品」の文字を探した。
いかにも「No.1商品」とアピールしてくるのは、屋台のベビーカステラのように雑に積み上げられたシュークリーム。サイズはS、M、Lがあった。「Mサイズを4つかなぁ」迷った時は大体真ん中。それも相場は決まっている。
あたふた忙しそうな店員のお姉さん。頃合いを見て声をかけようと様子を伺っていたら、後ろに並んでいたおばあさんが大声で呼び止めた。いとも簡単に先を越された。

「サイズはどうしましょう」
「ジャンボで」
「Lサイズですね」
「それです」

会話がスムーズなことに驚いた。
おばあさんが常連なのだろうか。それともお姉さんが手練れなのだろうか。

なにより、「ジャンボ」を久々に聞いた気がする。「ジャンボ」だなんて、どうせ死語——

ジャンボジェット、
サマージャンボ宝くじ、
…チョコモナカジャンボ。

でもないみたいです。

結局、おばあさんの後にシュークリームを4つ買って店を出た。
ビニール袋にねじ込まれたチラシを何気なく見ていると、どうも茶屋が坂に本店があるらしい。ダメ元で行ってみると、何事もなかったかのようにプリンがショーケースに並んでいた。

本店の存在に気がつけば、あんなに肩を落とすこともなかったのに。家に帰ったら妻や娘に怒られるのだろうか。

世の男性は肩身が狭いなあ。

  

 

ジャンボ 相沢睦 
 

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脚注

●ケーキ屋「プチフレーズ」
http://www.petit-fraise.jp/index.html

 

●三姫(友人)
●木乃香(友人)