ほろ苦いシャンパン

| <<前へ  |  目次  |  次へ>> |

 

ある日。

仕事帰り、封切ったロン・サカパをおもむろに手に取り、テレビ前に急行、YouTubeを映し出す。もえ、しゃんどーん、どん。他人の恋を語らう、水曜21時のとある晩酌配信を見ながら晩酌する。
毎回、今日のお酒を紹介するコーナーがあり、今回は「Moët & Chandon」だった。フランス出身の有名なシャンパンだそうだ。
シャンパンは親戚の結婚式で出されたことはあるが、あまり口に合わなかった。テレビからは美味しいと聞こえてくるけれど、気に留めなかった。

 

大型スーパーのお酒コーナー。ワインに日本酒。それから鍵のかかったショーケース。黒霧島、魔王、それからモエ・エ・シャンドン。モエ・エ・シャンドン、5,000円……。
その場の勢いで買ったはいいものの、自宅に帰って調べてみると風味がいいのは開封後せいぜい2、3日らしい。一人暮らしでシャンパン750mlを2、3日で飲み干すのは厳しかった。375mlにすればよかった。底が見えたのは1ヶ月後だった。風味の違いはわからなかった。

 

「たまには顔を見せて」母がしつこく言うので渋々帰省する。
NHK19時のニュースが流れる食卓。珍しく父母妹私が揃っていた。

母「最近仕事はどうよ?」
私「まぁまぁだよ、仕事は減ってるけど」
妹「私なんて、なんでマスクないの? この対応ばかりでバイト行くのが嫌になる」

談笑する。

私「最近有名なお酒だって云う話を聞いて、ちょっといいシャンパンをなんでもない日にあけたんだよね、モエ・エ・シャンドンって言うんだけど知ってる?」
父「知らんな。シャンパンなんて披露宴でしか飲まないからな。普段からシャンパンなんていい身分だな。こっちは真面目に働いてるんだよ!」笑い飛ばすように言った。

母と妹も笑っていた、だから私も笑った。けれど、内心すごく傷ついた。価値観を否定された気がした。他人なら流せるのに。自立したつもりだった。まだまだ子どもだと突きつけられた気分だった。

それからしばらく、実家には帰らなかった。

別に、誰かが悪いわけではないのだけれど。

   

 

ほろ苦いシャンパン 相沢睦 
 

| <<前へ  |  目次  |  次へ>> |