ガリガリ君は梨に限る

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ある日。

少し二度寝をした朝。目をこすり、歯を磨き、コップひたひたの水を流し込む。「行きたくないなあ」などとつぶやいてみても、会社は遠のかない。
あれこれ考えているうちに6時5分。5分の遅刻。

駅伝のタスキかのようにカバンを手にとり肩にかけ、玄関を飛び出した。グシャッ。何かを踏んだ気がしたけれど、振り返らなかった。

 

今日はトラブル続き。目一杯の残業。3時間延長コース。

うとうと、と。あくびをしながら家路に着くと、玄関前のアスファルトにガリガリ君ソーダ味のゴミがへばりついていた。

「1日の終わりまで。こんな仕打ちって」

踏まないようにまたいで、ドアノブに手をかけた時、ふと思った。

今朝はガリガリ君かどうか、いや、アイスのゴミであることすら気付くことなく踏み抜き立ち去った。
心にゆとりがない時、人はこうして悪気なく他人を傷つけてしまうのかもしれない。いとも簡単に。

振り返り、大きな口を開けた少年の目をじっと見つめた。

「ソーダより梨派なんだよなあ」

 

キッチンのゴミ箱に、そっと捨てた。

 

 

ガリガリ君は梨に限る 相沢睦 
 

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