ある日。
大津通りのApple Storeに向かう途中、モデルのような背の高い女性とすれ違う。都会には美人が多いと云う根も歯もない話があるが、どうやら噂は本当らしい。格好はシンプルな黒のハイヒール、黒革のクラッチバッグ、スリット入りの黒のラッフルスカート、ターコイズブルーのセーター。
ああいうのはよっぽど自信がないと着れないよな、などと評論家ぶっていたら、歩道が割れて生えているような街路樹とぶつかった。
午前7時00分、車通勤中の中濃大橋。夜中雨だった割には空に雲はなくあたたかい。橋の歩道を蛍光イエローの雨合羽を着た男性が走ってきた。来た先に視線をやると、向こう岸が見えないほど、白く濃い霧が立ち込めていた。
対向車とすれ違うたびにヘッドライトが乱反射。ホワイトアウトして危ない。
7時10分、雑木林。1月から始まった工場の生産応援も終わりが近づく。この道も3月末まで。路肩に車を停め、手すりに頬杖をつき、木々を眺める。
目の前いっぱいに広がった新緑の世界は見事な美しさ。葉の隙間から陽が差し、ステンドグラスを通したような。兎も角、見惚れた。
7時20分、まどろみ。スマホの時刻を見て慌てる。ゆったりとした時間の流れを引き裂くように車に飛び乗る。
美しさは人を魅了する。けれど、傷つくこともある。薔薇にトゲがあるように。美しさと危うさと、うらおもて。
街を歩く時、女性を目で追うのは、やめにしよう。
7時50分、息の詰まる工場の更衣室。荒い息遣いと汗だくで決意した花冷えの朝。
美しい花には棘がある 相沢睦