美しい花には棘がある

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ある日。

中濃大橋、朝7時。夜中雨だった割には、あたたかい。快晴なのに、蛍光イエローの雨合羽でランニングをする男性。橋の先が見えないほど、白く濃い霧が立ち込めていた。対向車とすれ違うたびにヘッドライトが乱反射。ホワイトアウトして怖かった。

雑木林、7時10分。お気に入りの場所。工場の生産応援も終わりが近づく。この道も3月が終わるまで。路肩に車を停め、手すりに頬杖をつき、すこしだけ景色を眺める。そんな日常。
仕事前に見る、目の前いっぱいに広がった新緑の世界は、言葉では言い表せないほどに美しい。いつになく見惚みとれてしまった。

はっ、と気づく。7時20分。ゆっくりとした時の流れが、まるでなかったかのように車に飛び乗った。

美しさとはつくづく恐ろしい。
美しいものはその美貌ゆえ、人を魅了する。だが、見惚みとれていると、傷つけられることもある。薔薇にトゲがあるように。美しさと危うさと、うらおもて。

街を歩く時、「美しい女性を目で追いかけるのはもうやめにしよう」。

会社の更衣室、7時50分。息を切らし汗だくで決意した、晩春の明け方。

 

 

美しい花には とげがある 相沢睦 
 

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